老犬とおばさん 明日の生活を楽しむ

穏やかに静かに過ごしていきたい理想、そうもいかない現実。 お付き合い しがらみ 煩わしいこと 少しずつ手放して 快適な生活を。

涙を流した犬 翁まろ(枕草子)

枕草子 第六段に登場する犬 翁まろ(おきなまろ)を
イメージして作られたぬいぐるみです。
この翁まろの物語は 感動的です。
翁まろに 非はないのに 人間の悪ふざけで辛い思いをします。
最後は happy endですが 
けなげな翁まろの情景を想像すると
心が痛くなります。






長~い現代語訳ですが、
ご興味がおありでしたら
ご覧ください。
枕草子 第六段  (出典 MAC)


 帝のおそばにいる猫は、五位をいただいて、
「命婦のおとど」と呼ばれ、とても可愛いので、
帝も大切にしていらっしゃるが、端近に出て寝ているので、
お守役の馬命婦(うまのみょうぶ)が、
「まあお行儀の悪い。お入りなさい」  
 と呼ぶが、日がさしている所で眠ったままなので、おどかそうと、
「翁(おきな)まろ(犬の名)、どこなの。命婦のおとどを噛め」  
 と言うと、本当と思って、馬鹿正直な翁まろが飛びかかったので、
猫は怯え、あわてて御簾の中に入った。


朝食の食卓に帝がいらっしゃった時で、ごらんになって、ひどく驚かれる。
猫を懐にお入れになって、男たちをお呼びになると、蔵人の忠隆と、
なかなりがやって来たので、
「この翁まろを打って懲らしめて、
犬島(野犬の収容所)へ追放しろ、今すぐに」  
 とおっしゃるので、みなが集まって大騒ぎして追い立てる。
帝は馬命婦をも叱られて、
「お守役を変えてしまおう。心配でならない」  
 とおっしゃるので、馬命婦は御前にも出ない。
犬は捕まえて、滝口の武士などに命じて、追放なさった。
「ああ、今までは体を揺すって得意そうに歩きまわっていたのに。
三月三日に、頭弁(とうのべん)(藤原行成)が、
柳の飾りを頭にかぶせて、
桃の花を挿させて、桜の枝を腰にさしたりして、
歩かせられた時は、
こんな目にあうとは思わなかっただろう」  
 などと同情する。
「皇后様(定子)のお食事の時は、
必ずこっちを向いて待ていたのに、
ほんとうに寂しいわねえ ※彰子が中宮になったので、
ここから定子を皇后と記述する」  などと言って、
三、四日経った昼頃、犬がひどく鳴く声がするので、
〈どんな犬がこんなに長く鳴くのだろう〉  
 と思って聞いていると、たくさんの犬が様子を見に走っていく。
御厠人(みかわようど)(便所の下級女官)の女が走って来て、
「もう大変。犬を蔵人二人で叩いているの。
死んでしまうわ。
犬を島流しになさったというのが、
帰って来たというので、懲らしめていらっしゃる」  
 と言う。心配なことだ。翁まろらしい。
「忠隆と実房などが打っている」  
 と言うので、止めに行かせると、ようやく鳴きやみ、
「死んだので、陣の外に引っ張っていって捨てた」  
 と言うので、
〈かわいそうに〉  
 などと思っている夕方、ひどく腫れ上がり、
汚らしそうな犬で、苦しそうなのが、
ぶるぶる震えて歩くので、
「翁まろなの。この頃こんな犬は歩いてはいない」  
 と言って、
「翁まろ」
 と言っても、聞きもしない。
「翁まろよ」
 とも言い、
「違うわよ」  
 とも口々に申すので、
「右近なら見分けがつくわ。呼びなさい」  
 と言って、皇后様がお呼びになると、やって来た。
「これは翁まろなの」  
 と言ってお見せになる。
「似てはいますが、これはあまりにも醜く気味悪そうです。
それに、翁まろなら、
『翁まろ』  
 と呼びさえすれば、喜んでやって来るのに、呼んでもやって来ません。
違うようです。
翁まろは、
『殴り殺して捨ててしまいました』  
とはっきり申していました。
二人で殴ったのなら生きているでしょうか」  
 などと申し上げるので、皇后様はかわいそうに思われる。  
 暗くなって、食べ物を与えたが、食べないので、
違う犬ということにしてしまった翌朝、
皇后様は髪をとかしたり、顔や手を洗ったりして、
わたしに鏡を持たせて髪の様子をごらんになっていると、
犬が柱の下にいるのをわたしが見て、
「ああ、昨日は翁まろをひどく殴ったのね。
死んでしまったなんてかわいそう。
何に今度は生まれ変わるのかしら。
どんなに辛かったことだろう」  
 となにげなく言うと、
その柱にいた犬がぶるぶる震えて、涙をひたすら流すので、
あまりにも意外なことに、それは翁まろだった。
「昨夜は隠れて我慢していたのね」  
 と、かわいそうなばかりか、
素晴らしいことこの上ない。
持っていた鏡を置いて、
「じゃあ、翁まろなのね」  
 と言うと、頭を下げてひどく鳴く。
皇后様もとてもびっくりしてお笑いになる。
右近の内侍をお呼びになって、
「こういうことなの」  
 とおっしゃるので、みんなで笑って騒いでいるのを、
帝もお聞きになって、
こちらへお越しになった。
「驚いたね、犬なんかでも、このような心があるんだなあ」  
 とお笑いになる。帝付きの女房なども、
これを聞いて集まって来て、
名前を呼ぶと、今は立って動く。
「やはり、この顔なんかが腫れているのを手当てさせなくては」  
 とわたしが言うと、
「ついに翁まろびいきを白状したわね」
 などと女房たちが笑うので、忠隆が聞いて、台盤所の方から、
「そういうことだったのですか。そいつを拝見しましょう」  
 と言ってきたので、
「まあ、とんでもない。そんなものは絶対にいない」  
 と言わせると、
「そうおっしゃっても、いつか見つける時もあるでしょう。
そういつまでもお隠しになることはできない」  
 と言う。  
 さて、その後お咎めも許されて、
翁まろはもとのような身分になった。
それにしても、かわいそうに思われて、
震えて泣きながら出て来た時は、
世間に比類がないほどおもしろく、感動的だった。
人間なら、人から言葉をかけられて泣くこともあるが。



今日のワンコ

今日もいい日でした。
明日もいい日になりますように💛

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